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@lumelyのブログです.概ね研究や教育の話を書きます.

これから大学で学ぼうとする人に向けた,学修に関する話

こんにちは,lumelyです.
漫画は単行本派ですが『ゆらぎ荘の幽奈さん』を1日でも早く出版して欲しいです.

ここしばらくは忙しく,というよりも5月くらいまでは忙しい日が続きそうですが,世が世なら三連休らしいので息抜きも兼ねて記事を書いてみます.前回の記事はどちらかといえば学部3年生向け,さらに言えば一度研究が上手くいかなかった修士~博士を想定して書いた勉強法の記事でしたが,今回はこれから大学で学ぼうとする新入生向けの記事です.

 

まとめ

  • 大学とは,柔軟な発想で物事を考える力と,新たなことに取り組める能力を身に付ける場である
  • 大抵のことは取り返しがつくので積極的に挑戦しよう.しかし取り返しの付かないことも確実に存在する
  • 大学が次々に打ち出す様々な取り組みは真面目に勉学に取り組むことを暗黙の前提としており,そうではない人にはどんどん生きにくい世の中になっている

目次

  • 「知らないからできない」とは言えなくなる,答えがない領域へ
  • 何をするも自由,単位を落とすのも自由な大学
  • 何でも屋にはならなくてもいい
  • 失敗を恐れない.大抵のことはどうにかなる
  • Webは開かれている:TwitterなどのSNSには注意
  • コピペレポートはリターンがリスクに見合わないので絶対にやらない
  • 大学の先生には色々と質問しよう
  • 大学という教育の場における流行
  • 終わりに:AIとクラウドソーシング

 

「知らないからできない」とは言えなくなる,答えがない領域へ

大学における学びが高校までのそれと最も大きく異なることは,学ぶ対象に「答え」が用意されていないことが圧倒的に増えることです.高校までの勉強においては必ず教科書が存在し,それをいかにして覚えるかということがポイントだったかと思います.その最たるものがセンター試験で,いかに頭に詰め込み,それを再現するかということに腐心してきたことでしょう.

しかし,大学での学びにおいて,答えというものは必ずしも存在するとは限りません.その典型が4年次に行う卒業研究というもので,名目上,まだ明らかになっていない何かを明らかにすることを求められます.

なぜそのようなことを教えているかというと,社会に出てから課される仕事は「知らないこと」ばかりだからです.大抵の物事には先例がありますが,それをそのまま適用できることは早々ありません.「理系だからプログラミングくらいはできるよね?」のような安易な無茶ぶりが往々にして行われています.そこで「知らないからできません」とだけ答えるようであればご飯を食べていくことができません.

大学は学び方を学ぶためにあります.こんなもの将来何の役に立たないよ!と憤るときが来るかもしれません.しかし,流行が目まぐるしく入れ替わる現代において,「すぐ役に立つこと」は「すぐに役に立たなくなること」でもあります.今何を学んでいるかという本質を見失わないようにしましょう. 

 

何をするも自由,単位を落とすのも自由な大学

大学では,授業料さえ払っていれば基本的に何をしても許されます.履修計画を自分自身で考えることができるため,履修をしないのも自由,単位を落とすのも自由です.

しかし,まとまった時間で勉強をすることができるのは老後を除けば学生のこの時期だけだと思って下さい.日々の仕事に疲れた人が社会人院生として大学に戻ってくることはそう珍しいことでもありませんが,日々の業務の間を縫って勉学に時間を割き,学位を取得するのは非常に難しいことです.

また,授業料は案外高いです.現在の国立の授業料は年間約53万円ですが,4年間で212万円を払い,約125単位を取得して卒業することを考えると1単位あたり1万7千円の授業料を納めています.多くの大学が90分授業15回で2単位ということを考えると,60分の授業に1,500円を払っている計算となります.これを上回るバイトは早々無いでしょう.

もちろん授業料を払うことで論文等へのアクセス権などの権利を得ていますし,入学金も別途払っているので時給1,500円相当というのは目安でしかありませんが,私立より授業料が安い国立でもこれだけのお金を払って勉強する権利を得ているということです.もちろん勉強だけが大学でしかできないことではありませんが,大学生生活というのは人生の中でも貴重な時期であるということは意識した方がよいと思います.

 

何でも屋にはならなくてもいい

情報の伝達が迅速となった現代では,特にTwitterFacebookといったSNSでは他人の長所が目立ちます.各々の長所(絵がプロ並み,歌がうまい,プログラミングが凄く仕事を請け負っている,文才がある,語学堪能等)全てに対抗するには超人にならなくてはいけません.しかし,才能を伸ばすには時間がかかり,残念なことにおそらく時間が足りないでしょう.もちろん大抵のことには先人が居るのですぐに諦めてしまってはどうにもなりませんが,全ての才能を伸ばす必要は必ずしもありません.

何でも構わないので何か1つこれだけは負けないという能力を育てることができれば色々と救われるかと思います.今は共同・協調の時代なので,尖った才能同士を組み合わせることができればより凄いことができるようになるでしょう.

 

失敗を恐れない.大抵のことはどうにかなる

何か新しいことを始めようとするとき,失敗するかもという不安は常に脳裏をかすめるものです.しかし,やろうとする意思と時間さえあれば大抵のことはどうにかなります.熟慮も重要ですが,まずはやってみるといいと思います.多くの物事にはタイミングがあり,「いつかやろう」と思っていることはいつまで経ってもできません.いつかバンドは解散しますし,サービスは終了します.イベントは2度と開催されませんし,「あとで読む」は溜まる一方です.まずは手や足を動かしてみましょう.

またバイトをしたり団体に属したりしたときにありがちなことして,「自分が抜けると回らなくなってしまう」と思うことが訪れるときが来ることもあるかと思います.このような思いに囚われてしまい引退時期を誤ったという話はよく聞きます.しかし,そのようなバイト先や団体は遅かれ早かれ潰れるので,勝手に潰れればいいのです.何も気負う必要はありません.もし運営を行う立場にいて,存続させたいと強く願うのであればそのような組織作りをすべきでした.全ては手遅れなので諦めましょう.

また,4年もあれば大失敗をしてしまうことがあるでしょう.これも基本的には気負う必要がありません.なぜなら多くの社会人は我々学生に大して期待していないからです.もちろん卒業論文の提出日など,泣いても謝ってもどうしようもない「大抵のこと以外」はありますし,社会に出てからもミスを連発するようであれば学生意識が抜けないということでおそらくクビになるでしょうが,大抵の失敗は取り返しが付きます.過去の失敗にいつまでも引き摺られず,これからどうするかを考えましょう.なお,心ではそう思っても体が動かないときは病院に行きましょう.

 

Webは開かれている:TwitterなどのSNSには注意

Webはその設計思想からして開かれたものです.当然その上にあるサービス,例えばTwitterのようなSNSも基本的にはそのような性質を持っていると思ってください.

開かれているとはどういうことかというと,1) どのような発言でも世界中に一瞬で伝わり,2) 記録され未来永劫残る,ということです.どのような意図があったとしてもなかったとしても,たとえちょっとした悪戯や気の迷いだったとしても,多くの人が問題だと考えることはバッシングの対象となります.

現在のWebサービスは肉体を持った現実と密接に繋がるようにデザインされています.すなわち,Web上で大きな注目を集める,つまり炎上するということは,現実世界にも一生残る傷を残すことになりかねません.一度炎上すると昼夜を選ばない攻撃に苛まされるばかりか,個人情報の特定にも繋がり,折角苦労して入った大学を休学,あるいは退学せざるを得ない状況まで追い込まれてしまう可能性が大いにあります.Web上での発言は十分な注意を払ってください.

Twitterで鍵を掛けているから,私はLINEだからと大丈夫と思った人も例外ではありません.あなたのフォロワーや会話相手全員は誰か同定できており,またあなたの発言を勝手に公開しないと断言できるでしょうか?さらにサービスにはバグや穴がつきものです.先日の某芸能人とアーティストの不倫騒動では嘘か誠か,LINEのスクリーンショットが燃料となりました.くれぐれも気をつけてください.

 

コピペレポートはリターンがリスクに見合わないので絶対にやらない

研究界においては数年前に小保方氏が不正行為をしたとして大きな話題となりましたが, 大学は本来不正行為に対して大変厳しいところです.筆記試験におけるカンニングが不正行為ということはこれまでで何度も強調されてきたかと思いますが,レポートにおける無断転載(所謂コピペ)も立派な不正行為です.絶対に行ってはいけません.

何もWebから丸々コピーしなくても,本から写せばバレないと思われるかもしれません.しかし,それは非常に甘い考えです.大学の先生は同じテーマのレポートを数百,数千と見ています.出題テーマに関連する書籍は大抵読んでいますし,何より書いた人の知的レベルが同学年のそれと比べて違う場合は一読した瞬間にわかります.

処罰は遡及して行われますので,一時しのぎをして将来的に単位取り消しや卒業取り消しなどの処罰に一生怯えるくらいであれば白紙でレポートなりを出して来年頑張った方がよいでしょう.なお,適切な引用であれば他の著作物を問題なく利用することができます.正しい引用の仕方はよく勉強しましょう.

また,何かの著作物を横に広げながら原稿を書くと必ずそれに影響されるので,本ならば閉じた状態で書くと良いと思います.

 

大学の先生には色々と質問しよう

多くの大学の先生は高校までの先生とは違い教員免許を持っていません.つまり,教え方を教わっていないということで,端的に言えば下手な人も多いです.左から板書して右から消すような先生もいるでしょう.

なのでがっかりしてしまうことも多いかもしれませんが,基本的にはその道の専門家であり,博覧強記です.高い授業料を払っているのですから,うまく利用しましょう.具体的には,不明点はすぐに質問するといいです.

大学の先生は研究者でもありその分野に興味を持ってくれることを喜びます.また質問者は100人居れば数人居るか居ないか程度なので,何か質問をすれば喜んで答えてくれるはずです.どのような授業が開講されるのかをまとめたシラバスにはオフィスアワーという,先生が質問を受け付ける時間が記載されているはずなので,是非活用しましょう.ただし,大抵授業中など物理的に利用不可能な時間帯に設定されていることが多いので,別途アポイントを取るべきでしょう.先生方は基本的に非常に多忙であり,メールは中々返ってこないという方も多いです(毎日30~100通以上受け取っている).アポイントを取るなら授業直後が良いでしょう.

ちなみに大学の先生の生態については

あくびカレッジ (クロフネコミックス)

あくびカレッジ (クロフネコミックス)

 

 によくまとまっているため,興味がある方は是非ご一読ください.私の周りの先生にお見せしたところ「うちの学生はここまで不真面目ではない」というコメントを頂きましたが,そこそこ参考になるかとは思います.

 

大学という教育の場における流行

大学では本音と建前が見事に乖離しています.その最たるものが単位です.

単位は大学設置基準というものにおいて「1単位は45時間の学修を必要とする」と定められています.これはつまりどういうことかというと,授業が90分15回で2単位であれば90分の授業に対し毎回270分,75分10回で1単位であれば75分の授業に対し毎回195分の予習復習をしろということです.大学生は一般的に学部1~3年次でそれぞれ約40単位を取得し,4年次で卒研と就活をするのですが,1年次からいきなり起きている間は全て勉強に費やし,さらに寝る暇を惜しんで机にかじりつかない限りこの数値は達成できません.

これを初めとして,「アクティブラーニング」「eラーニング」「反転授業」という最近のキーワードは全て学生が全員真面目であるという大前提があるように思えます.これらの改革を実施している人が現役の大学生だった頃,果たして同期が真面目な人ばかりだったのかは大変に興味深いところですが,少なくともこれから大学で学ぼうとする皆さんは勤勉であるとみなされているという前提があるということは頭の隅に留めておいてください.

アクティブラーニング

大学においては最近「アクティブラーニング」というものが流行っています.これは従来のような先生が一方的に受講生に講義をして終わるような受動的な授業を行うのではなく,議論等を通じて能動的な授業を行おうというものです.

議論を通じた授業といえば数年前,哲学の授業において「君はどう思う」という質問を交えることが特徴的だったハーバード白熱教室が連想されます.

この方式の大前提は,能動的な学びを行う前に受動的な学びをしているということです.何の知識も無い分野において議論ができるわけがありません.事前に1人で参考書や論文を読んでよく考える必要があります. 

 

eラーニング / LMS

eラーニングとはコンピュータを使った学修です.それを実現するためにLearning Management System(LMS)と呼ばれるサービスを使えと言われるかと思います.具体的には, Amazon等やTwitter等の既存のWebサービスに比べればどうしようもないインタフェースのシステムでアンケートや小テストに取り組むことになるかと思います.どうも高機能であればあるほど良いという認識をしている感が否めません.

その辺りの問題は次第に解消されるという期待をしつつ,このシステムの一番の売りは「学修状況を管理できる」ということです.つまり,これまでは少なくとも建前上は授業時間を上回る時間を費やしているとされていた予習復習が実際になされているかが可視化されます.これは俗に「見える化」などとも呼ばれています.

集計などの雑務が減るということで今後LMSを導入するということは益々増えると思います.なお,諸問題は相手に聞こえる形で声を上げないと一向に改善されません.使い勝手が最悪な場合は根気よく長文の「改善提案」を送りましょう.

 

反転授業

反転授業とは,これまで教室で行ってきた講義内容を事前に自習させる分,教室では議論や共同学習をしようという方式です.授業に出る以外の勉強を極力したくなく,試験前に頭に詰め込むという作戦を採ってきた人に取っては辛い授業でしょう. 

 

オープンコースウェア / MOOC / スーパーグローバル大学

オープンコースウェアとMOOC(Massive open online course)は正確には異なるものですが,「無料で」「誰にでも」大学の講義を受けさせる点という点では同じものです.日本のMOOCとしてはgaccoが有名です.面白そうなタイトルの授業も多くあるため,興味がある人は試してみると良いでしょう.

これらは意欲はあるが場所的,金銭的制約で学ぶことが出来ない人達に向け提供された教材と考えるべきでしょう.かなり飛躍的な発想ですが,それとは逆の立場となる,金銭的余裕はあり大学には通えるが意欲が無い人は駆逐されると思います.

また,2014年から国際競争力を上げるということでスーパーグローバル大学という事業・構想が展開されていますが,どうも日本の人材を海外に送り出すというよりも海外の優秀な人材を日本に招くという意味合いが強いように思われます.

自由貿易においてはより高品質で安いものがあればそちらが売れるのが道理なように,より勤勉で優秀な人材が海外から来るのであれば,席をそちらに譲るというのは自然な流れではないでしょうか.うかうかしていられません.

 

終わりに:AIとクラウドソーシング

最近非常に流行しており,半ば一人歩きしているキーワードにAIとクラウドソーシングがあります.将棋や囲碁のトッププロと機械を戦わせたというニュースを見た人も多いのでは無いでしょうか.

非常に大雑把に説明すると,前者は「人の仕事を機械にやらせる」,後者は「ある人の仕事を群衆にやらせる」ということです.つまり,ゆくゆくは機械に出来る仕事や群衆に出来る仕事で生計を立てている人は路頭に迷うことでしょう.

もちろん,理論上出来るからといってすぐにそれが機械に置き換わるかというとコスト等の問題でそうはならないことの方が多いですし,たとえそれにより仕事が消えたとしても,新しい仕事が代わりに生まれるだけかとは思います.しかし,安寧の地が次々と消えている,あるいはもう消えてしまったのは確かでしょう.

私は,これからの時代に対応するために重要なのは柔軟な発想で物事を考える力と新たなことに取り組める能力を養うことだと考えます.またそれは,大学において学べることなのではないでしょうか.

4年は長いようでありその実短いので,授業やサークル,バイトに追われる内にあっという間に終わってしまいます.今回の記事で述べたようなことを頭の片隅に留めつつ,大学生活を存分に楽しんで頂ければ幸いです.

 


ref.

もっとストレートな単位の取り方の記事:

研究をしたいという人向けの記事: