#フレンズ研究賞 が目指すもの
こんにちは,lumelyです.
文豪ストレイドッグスが最高に面白いです.昨日の敵は明日の味方的な王道的展開,禁書目録とかでよくある,まとめたら2ページくらいで説明しきれるいい話,主人公が治癒能力持ちなので4部ジョジョ以降並みのやりたい放題,そして何よりも中学生~高校生が作者名や作品名から想像して考えたかのような非常に表層的で薄っぺらいキャラメイクと能力設定が最高です*1.ラノベ好きならもとより,文学少年/少女な(だった)方は突っ込みながら読むことで2倍楽しめるので是非読みましょう .
2017年4月25日にフレンズ研究賞*2というものを立ち上げました.趣旨の半分くらいはWebサイトに書いたのですが,宣伝と所信表明を兼ねてもう少し詳しい話を紹介します.
3行でまとめ
- 有用性の有無による判定や競争による既存の研究配分の仕組みでは,長期的に考えて国際的競争力を高めることは本質的に困難である
- フレンズ研究賞は既存の仕組みとは全く異なる,研究を行っていると自称する人にであれば誰にでも平等に研究費を配分する可能性を与える仕組み
- 10年計画でもっと大規模な仕組みに発展させることを検討中.拡散,宣伝お願いします
目次
背景: 研究費を取り巻く問題
データを引っ張ってくるのが面倒なので詳細は適当に調べて頂きたいのですが,日本では研究費の割当額がどんどん削減されていると言われています.研究は何だかんだいってお金がかかるので,研究費の削減が招くのは国際競争力や技術力の低下です.一方で,文部科学省はスーパーグローバル大学と呼ばれるものを作ったことからも垣間見られるように国際的な競争力や落としたくなく,むしろ高めたいので,その結果行われている施策は競争的資金への配分額の傾斜など,要するに凄い人に沢山お金を付けて頑張って貰おう,という方針を明らかに打ち出しています.
競争により切磋琢磨する,ということはある程度は必要なことではあるのですが,それが行きすぎてしまうと次の2点の問題が発生します.
応用研究の重視と基礎研究の軽視
研究の線引きは厳密には困難なことなので大雑把な解釈と捉えて頂きたいのですが,研究は応用研究と基礎研究に分けることが出来ると考えられています.私の理解では,応用研究はプロダクト化に直結していたり,何の役に立つのかがはっきりしている研究,基礎研究は何の役に立つのかがさっぱりわからない研究です.私の出身であるデータベース分野で例を挙げると,Twitterのタイムラインから地域性のあるイベントを検出する手法・サービスに関する研究は応用研究と言えるでしょうし,ある問題がNEXPTIME完全かEXPSPACE完全のどちらかを証明する研究は基礎研究であると考えることができます*3.
最近は役に立たない研究をしていると「国民の血税を何だと思っている」とお叱りを受けたりもするように,研究費を取りにいくにあたって説明がしやすいのは明らかに応用研究です.また,国や組織として余裕が無くなってくると,有用性のアピールのために応用研究をしがちな傾向にあるため,研究者としても基礎研究ではなく応用研究に取り組んだ方が良い,ということになります*4.
しかし,長期的な視点に立てば何が本当に役に立つのか本質的に分からないのが研究です.高等教育における教養の重要性においても同じような理論が展開されていますが,「すぐに役に立つ」ということは「すぐに役に立たなくなる」と同義です.例えば,Twitterに関する研究は,もしTwitterがサービスを終了したらその殆どの有用性が失われます.特に,Webサービスは流行廃りが激しく,今から7年前と今のmixiの立ち位置を考えると50年,100年後もTwiiterに関する研究の有用性が今と変わらず継続しているとはとても思えません.一方で,計算量問題に関する研究は今はコンピュータの性能の問題でPかNPかを判別することくらいが精々役に立つと言え,それ以上のクラスについては前述のようにそこまで意味があるとも思えませんが*5,もし量子コンピュータのような新しい技術が全家庭に普及する程度にまで技術水準が上昇したとすればクラスNPに属するか,クラスPに属するかを考えることは実質的に意味が無くなり,より難しいクラス間の線引きに有用性が生じる可能性もあります.
また,研究は「巨人の肩の上に立つ」とも言われるように,これまでを積み重ねて常に漸進していく,という特徴を持っていることも重要です.数学界における難問の1つにポアンカレ予想がありましたが,殆どの数学者がトポロジーを用いてこれを証明しようとしたのに対し,ペレルマンはリッチフローの拡張という全く別のアプローチで最終的にこの問題を証明しました*6.このことからもわかるように,応用/基礎研究等のような線引きを研究に対して行い,取り組む対象を絞ってしまうことは,長期的に考えれば大きな損失,非効率に繋がる恐れがあります.
既得権益の拡大と持たざる者の不遇
競争的資金のルールにおいて,研究費は既に実績を持つ人のところに集約されていきます.何故ならば,研究が上手くいくか,ということを判断するのに対し,一番分かりやすい指標は業績だからです.従って,既に実績がある人がより実績を積み上げ,その一方で実績を持たない人は最初の一歩すら踏み出せない,という問題が発生します.この問題は競争,選別というルールにおいてはまず解決ができません.就職に例えるならば,大学を卒業見込みの新卒の人と,卒業してから特に理由もなく自宅警備を5年していた人のどちらか就職しやすいか,ということを考えればその理由は明白でしょう.
ランダムに頒布される研究費の必要性
上記のような有用性やマタイの法則にまつわる問題は既存の枠組みで解決することは本質的に困難で,ベーシックインカムのようなほぼ無条件で使うことのできる研究費のような新しい仕組みが必要です.もちろん不正受給には警戒する必要がありますが,やる気さえあれば,研究対象が何であろうと,それを行おうとする人が誰であろうと金を出す,という道楽のような研究費でしか,今の学術界の窮状から抜け出す道はないと私は考えています.
しかし,貧すれば鈍するとことわざでも言われているように,今の日本でそのような研究費を既存の組織が出すことは困難です.財団レベルでは分野を限ればそのような仕組みに近いことをやっているところもありますが,分野を超えて受給が可能な研究費でなくてはいけません.また,私の知る限り,既存の研究費は数ページの研究計画を出したり,報告書を提出しなければなりません.また,資金の用途もかなり厳密に規定されています.しかし,研究という知的生産活動を行う上において,環境の整備などによるモチベーションの維持や向上は非常に大切とされていますが,それらに必要な,美味しい寿司を食べたり,Nintendo switchを買うことは既存の研究費では絶対に許されず,もしそれが実現できたとしても,血税を何だと思っていると抗議の電話が鳴り止まなくなることは目に見えています.
フレンズ研究賞
フレンズ研究賞は,上記のような考察から創設された研究賞です.詳しくはWebサイトをご参照頂きたいのですが,何者かを明らかにし,課題名を明らかにするだけで応募が可能で,1年,あるいは3年以内に対外的に観測が可能な何らかの研究活動を行うだけで自由に使える5万円が完全にランダムに貰える,というものです.研究者としては,可能な限り最も信頼が出来る情報源である査読付き学術論文誌に採択されることを目指して欲しいのですが,IFがどうとか,この学会に出さなければいけないというケチくさいことは言いません.また研究かどうか,の境目は本質的には規定が不可能ですので,応募者がこれは研究だと信じる限り,どのようなテーマでも応募を可能としています.従って,例にはRubyKaigiと図書館総合展を挙げていますが,成果の発表形態も問題にしていません.私としては,既存の仕組みでは研究費の取得が困難なプログラマや図書館員による実務的な取り組みもどんどん応募してくれればと考えています.また,研究「賞」としている理由は,このお金を取ったことにより,他の研究助成金などへの申請や採択の妨げにならないようにする,という意図があります.お金が少しでも欲しい人はどんどん応募してくだしあ.
今後の予定
国際会議に1回行くには大体30万くらい必要ですし,学術論文誌に掲載されるにも15万から20万程度は必要ですので今回の5万という額は非常に乏しいと考えています.そこで,今後は
- 副賞の金額を1件30万まで増額
- 受賞件数を可能な限り増やす
ことを目的としたいと考えています.ただし,今回の5万円は全額私のポケットマネーから出たものであり,私も授業資料と称して参考書を50冊買ったらフローが尽きたので,支払いを一時的に全額リボ払いに変えざるを得なかったなど,大変裕福であるとは言えません*7.従って,これらの2つの目標を可能な限り達成するには,あしながおじさんのようなスポンサーを広く募って,それを今と同様の方法でランダムにばらまく,という仕組みが必要です.そのために,将来的には寄付に税制上の優遇制度などがある公益財団法人の設立を10年以内に行いたいと考えています.
しかし,私も一介の研究者であり,特任助教という雇用を打ち切るかどうかの判定が毎年発生し,しかも3年後には確実に打ち切られるという不安定な立場にいる以上,私の研究活動を最優先しなくてはなりません.幸い過去の経験より単純作業は得意なので今回のフレンズ研究賞2017に関しては応募が500件くらいまでは趣味として1日で処理が可能と判断して始めましたが,それ以上の労力を掛けることは困難です*8.従って,この記事を読んだ人の中にはクラウドファンディングをした方がいいとご提案される方や,法人化に必要な300万をあげるよとお申し出頂ける方がいらっしゃるかもしれませんが,申し訳ありませんが手間が増えることは全てお断りしております.
もし本取り組みにご賛同頂けるのでしたら本WebサイトのサイドメニューにあるAmazonアソシエイトリンクから自分の買い物をすることにより私の書籍費の一助をして頂くか,同様の仕組みを独自に立ち上げて頂ければと考えています.また,このような考えを広く周知して,大金持ちにリーチすることにより同様の仕組みが立ち上がる可能性もありますので,TwitterやFacebook等でご紹介頂ければ幸いです.
フレンズ研究賞2017 自薦公募中 (2017/5/17(水) 23:59まで)
現在,フレンズ研究賞2017の自薦を公募中です.沢山の応募をお待ちしております.
「図書の網」は、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。
*1:泉鏡花が少女,「細雪」が幻覚を作り出す能力,フィッツジェラルドが拝金主義で,「グレードギャッツビー」が消費した金銭に応じてバフする能力,等々
*3:どちらも現実的には難しすぎて扱えないという意味で,「超難しい」と「死ぬほど難しい」の区別をすることは,そこまで意味がない
*4:例えば,古代ギリシャにおける哲学はもし奴隷制度がなく,その日の暮らしに苦労するようであれば殆ど発展しなかったのではないかと思います
*5:計算量にご関心がおありの方には東野圭吾の『容疑者Xの献身』をお薦めします.主人公の1人である石神はP≠NP問題に取り組んでおり,作中では「検算と,1から問題を解くことのどちらが難しいか」という説明をしています.ちなみに,P≠NP予想を証明すれば100万ドルの懸賞金が得られますので是非チャレンジしてください
*6:ちなみに,ペレルマンは数学界のノーベル賞と言われるフィールズ賞の受賞を史上初めて辞退したり,100万ドルの懸賞金も受け取らず否かの片隅でキノコを掘っているなど,非常に面白い研究者です.詳しくは『100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影』をお薦めします
*7:ただし,国大法人の助教として,同年代の中ではかなり上位に入る額を貰っており,また家や車などお金がかかるものには全く興味がないので,毎年5万を捻出するのは可能だろうと判断して今回賞を解説しました
*8:4月23日に電車待ちをしているときに思いつき,移動中の1時間半で文章を考え,24日にドメインを取得して25日にはWebサイトを公開しました